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なぜ今、新たな洋楽ショーケースなのか ユニバーサル ミュージック『東京音始』がつなぐ世界と日本

 8月17日、東京・原宿にあるユニバーサル ミュージック本社で、新たな音楽イベント『東京音始(TOKYO OTOHAJIME)』が開催された。これは、同社洋楽部門であるユニバーサルインターナショナル発のショーケース・シリーズ。世代やジャンルを限定せず、「いま、日本のリスナーに届けたい」と思える音楽を取り上げ、紹介するという内容だ。その記念すべき第1回に、イギリスとスーダンにルーツを持つシンガーソングライター/ボーカリストで、Fujii Kazeとのコラボレーションシングル「Comets + Gold」でも話題を集めるエルミーンと、2023年にイギリスで結成され、楽曲の総ストリーミング数が10億回を突破するロンドン発のインディーポップ・デュオ、Good Neighboursが出演した。イベントの様子と併せて、『東京音始』担当者へのインタビューを紹介する。
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    Good Neighbours

“いま日本に届けたい音”を東京から 『東京音始』に込めた思い

 音楽の聴かれ方や新しいアーティストとの出会い方が大きく変化している現代において、レコード会社として、リスナーに楽曲を届けるだけではなく、「なぜ、いまこのアーティストなのか」「この音楽のどこに注目してほしいのか」という背景まで含めて発信できる場を創る。そうした思いが、『東京音始』を立ち上げるきっかけになったと語るのは、ユニバーサルインターナショナル 東京音始チームの佐々木花帆氏だ。

 「私たちが紹介したいのは、単にリリースされたばかりの“新曲”ではありません。そのアーティストが持つ本質や、時代の空気を捉えた表現など、いまの日本に必要だと感じる“本物の音”。世界中から新しいカルチャーが集まり、そこからまた広がっていく街・東京を、その“音の始まり”の場所にしたいという思いを込めて、『東京音始』と名付けました」(佐々木氏)
 
 ロゴのウェービーなシンボルも、音の波形を表現すると同時に、同社原宿オフィスから見える富士山もイメージしているという。アーティストと日本のリスナーをつなぐ新たな出会いの場へと育てていきたいという気持ちの表れだ。

 その第1回出演アーティストとして選ばれたのは、ともに『SUMMER SONIC 2026』で日本での初パフォーマンスを披露した、エルミーンとGood Neighboursの2組(Good Neighboursは今回が初来日)。佐々木氏によると、それぞれ異なる個性や魅力を持ちながらも、何より音楽が素晴らしいことと、『東京音始』が掲げる“いま日本で花開いてほしい、本物の音を届ける”というコンセプトを体現してくれる存在であることが、この2組に出演をオファーした一番の理由だったそうだ。

 「両者とも、日本での活動やプロモーションに対して非常に前向きで、日本のリスナーとつながりたいという思いを持ってくれていました。私たちだけが一方的に紹介するのではなく、アーティスト自身と同じ方向を向きながら、その魅力を届けていけることも大切なポイントでした」(佐々木氏)

 そんなエルミーンとGood Neighboursは、どんなアーティストなのだろうか。改めて、彼らの個性やアピールポイントについて、ユニバーサルインターナショナル アーティスト担当の小石里奈氏に紹介してもらった。

 まずエルミーンは、英国オクスフォード出身、弱冠25歳の実力派シンガーソングライター。すでに英国では5,000人のキャパシティを持つブリクストン・アカデミーをソールドアウトさせるほどの人気を誇っている。

 「近年は拠点をロサンゼルスに移し、米国のABCテレビで放映されているトーク・ライブ番組『Jimmy Kimmel Live!』等にも出演するなど、米国でも精力的に活動しています。また、幼少期から日本のアニメを見て育ち、日本への関心も深く、プライベートを含め2026年には3度来日しています。朗らかな人柄と美しい歌声が魅力的なアーティストです。『SUMMER SONIC 2026』では、彼の歌声が響いた瞬間に、会場がうっとりとした雰囲気になったことが印象に残っています。また東京会場では、サプライズゲストとしてFujii Kazeさんが出演され、コラボレーションシングル『Comets + Gold』を披露し、話題となりました」(小石氏)
 
 一方のGood Neighboursは、オリー・フォックスとスコット・ヴェリルによるロンドン発のインディーポップ・デュオ。2024年、TikTokで公開した楽曲「Home」のバイラルヒットで注目を集め、ギター、キーボード、ドラムと数々の楽器を弾きこなすマルチ・インストゥルメンタリストであるオリーの独特の歌声ときらびやかなサウンド、そしてノスタルジックな雰囲気が融合した楽曲が、彼らの大きな魅力だ。

 『SUMMER SONIC 2026』東京会場ではMOUNTAIN STAGEのトップバッターで、正直なところ、集客が気になっていました。でも、バンドのパフォーマンスが始まると、彼らの音につられるように多くのお客さんが集まってくださり、ジャンプをしたり、楽しそうにリズムに乗っている姿がとても印象的でした。数々のグローバル・フェスティバルに出演しているだけあり、アジアでの初パフォーマンスでしたが、手応えを感じています。また本人たちも、会場でのサイン会などを通して日本のファンと直接交流できたことを大変喜んでいます」(小石氏)
 
 ではここで、この2組が出演した第1回『東京音始』の様子をレポートしよう。

エルミーン&Good Neighbours 日本で届けた親密なライブパフォーマンス

 第1回『東京音始』は、音楽業界関係者向けのショーケース・ライブということで、開場時刻を迎えると、メディア関係者を中心に続々と客席が埋まっていった。そうした中で、開演時間の19時30分、司会者の挨拶に続いて早速ライブがスタート。まずステージに上がったのは、Good Neighboursのオリー・フォックスとスコット・ヴェリルの2人だ。『SUMMER SONIC 2026』でのバンド編成とは異なり、この日は2人がギターを手に、緩やかなテンポの弾き語りスタイルで演奏した。
 
 まず、彼らの代表曲のひとつである「Ripple」を披露すると、スコットがアコースティックギターを手にし、オリーの「余計なものを削ぎ落とした僕らにとって新しいサウンドです」という紹介で、6月26日にリリースされた「Superstar」、続いて「Starry Eyed」が演奏された。そして最後に歌われたのは、デビュー曲である「Home」。「作った時は、これが良い曲だなんて気付かなかった。でも世界が“良い曲だ”と教えてくれたんだ」というオリの言葉に続いて、スコットの柔らかい口笛とノスタルジックなギター、オリーのエモーショナルなボーカルで、彼らのステージは締めくくられた。
 
 パフォーマンス後のミニ・インタビューでは「『SUMMER SONIC 2026』の演奏は最高に楽しかった。また日本に戻ってきて、自分たちの単独公演で、あの楽しさを再現できたら最高だし、日本のアーティストと一緒にコラボレーションができたら、とても嬉しい」と語り、日本のファッションやカルチャーへの興味とともに、来日公演などを通して日本のファンとの接点を数多く作っていきたいという希望を明らかにした。
 続いてステージに上がったのはエルミーンだ。この日はキーボードの弾き語りスタイル。ソウルフルで、繊細かつダイナミックな歌声を会場に響き渡らせた。笑顔とともに「こんにちはみなさん!」という流暢な日本語の挨拶でパフォーマンスを始めたエルミーンが、エレクトリック・ピアノの音色とともに歌い始めたのは「Cry Against The Wind」。しかも、アウトロのリフレインから歌い始めるという自由な構成。そのままキーボードの演奏が途切れることなく、Fujii Kazeとのコラボレーション曲「Comets + Gold」のコーラス(いわゆるサビ)、さらにはホイットニー・ヒューストンのヒット曲「Exhale(Shoop Shoop)」のカバー、そして再び自身の楽曲「Reclusive」を、メドレーのようにつなぐ自由な構成は、まるでホームパーティでの演奏のよう。彼がとてもリラックスして、気持ちよく歌っている様子が客席にも伝わってくる。

 するとエルミーンは、キーボードを弾き続けながら「みなさん一人ひとりと親しくなりたいから、1曲だけ、一緒に歌ってくれませんか?」と語りかける。そして日本語で「わかりますか?」と付け加えて会場を和ませると、観客とともに「Anyways」を歌い、ステージを締めくくった。

 パフォーマンス後には、『SUMMER SONIC 2026』を振り返り、「素晴らしい経験で、この新しい場所(日本)でコミュニティを作ることができてとても楽しかった。自分が歌った瞬間、みなさんとつながりを感じることができて、本当に光栄です」と感謝を述べると、この日のステージに関しても「アットホームな雰囲気での演奏が大好き。キーボードをプレイしながら歌うのも、すごく新鮮だった」と続けた。

 そして、今後の日本での活動について質問されると「やりたいことが2つある。1つ目は山形のさくらんぼを食べてみたい。2つ目は、いつかアニメ『ONE PIECE』のオープニングテーマを歌いたい」と、自ら日本語で“オタク”と表現するほどの熱烈な“ONE PIECE愛”をアピール。高い歌唱力だけでなく、アニメや漫画といった日本カルチャーへの熱い思いや、穏やかで親しみやすい人柄までが伝わってくるステージとなった。

英国から次々と新たな才能 多様化する世界の音楽トレンド

 このように、大盛況のうちに幕を閉じた第1回『東京音始』。ここからは、今回の出演者を入り口に、現在の海外音楽シーンの傾向について探っていく。
 
 今回の『東京音始』に出演した2組は、ともに英国を拠点とするアーティスト。そこで、最近の英国と米国の音楽トレンドについても見ていきたい。

 現在の英国の音楽シーンでは、クラブ・ミュージックやインディー系ミュージック(インディーポップやロック)、ヒップホップやR&B/ソウルなどが大きな存在感を持つ。一方、米国では、ヒップホップとR&Bは英国と共通するものの、それ以外はポップス、カントリー、ラテンなどがメインストリーム。なかでもカントリーは、特に近年、大きな存在感を示している。このあたりの動向について、ユニバーサルインターナショナル マネージングディレクター代行 川アたみ子氏に話を聞いた。

 「感覚的な表現になってしまいますが、米国は国土の広さや人種の幅広さなども踏まえて、巨大な音楽市場の中でジャンルごとに巨大コミュニティが存在しており、そこから全国的ヒットが生まれている印象です。カントリーやラテンは顕著な例。一方で英国は、米国とは対照的に、小さい国の中に複数のサブカルチャーが存在していて、時折混ざり、ポップスとして昇華するイメージです。オリヴィア・ディーンやピンクパンサーズ、デイヴなどが代表的で、特にピンクパンサレスが全英チャートのTOP10に入ることなどは英国ならでは。また、ギター・ロックのサム・フェンダーがR&Bのオリヴィア・ディーンとコラボして年間最大級のヒットを出したりするのも、非常に英国らしいと思います」

 そのうえで川ア氏は、英国と日本との音楽的な親和性について、次の2点を挙げてくれた。1つ目は、ザ・ビートルズの時代から日本では英国のロックバンドが熱く支持され続けているという点だ。「UKロック」というジャンル名が付けられるほど確固たる存在となっているのは日本の音楽市場における特徴の一つといえる。2つ目としては、英国と日本の音楽シーンに、多様なジャンルが共存しているという共通点があること。それは日本のオリコンランキングに、ポップス、ロック、アイドル、K-POP、声優/VTuber系と非常に多岐にわたるジャンルのアーティストが名を連ねていることからも、日本の音楽シーンにも、英国と同様に多様なジャンルが共存していることがうかがえる。

 「これは個人的な後付けに近いかもしれませんが、英国と日本は、国土面積の小ささという共通点や、それゆえの文化的背景の共通点もあると思います。“空気を読む”ことや、“以心伝心で”といったことが起きる日本はスーパー・ハイコンテクストな国ですが、その対極が、ロー・コンテクスト文化の米国。その中間に位置するのが英国なので、日々、両国のアーティストやスタッフと仕事をする中で、一緒にいる際に流れる空気や発言するタイミングや、間(ま)など、イギリス人と日本人には近いものを感じます」(川ア氏)

 では、現在の洋楽全体の傾向や、2026年下半期に起こりそうな新たなムーヴメントはどういったものが考えられるだろうか。かつて2000年代後半からコロナ禍前までは、EDMからトロピカル・ハウス、トラップ、そしてベッドルーム・ホップなど、その時代ごとの流行が明確だった。だがそのような傾向が最近は薄れてきており、洋楽シーン全体を見ても、ヒット曲には明確な共通点があまり見いだせない。そもそも、ヒット曲自体が“新曲”ではなく、過去曲のリバイバルという場合も少なくはないため、川ア氏は「良い意味でも悪い意味でも、どんな国の、どんなジャンルの、どんな音楽がヒットしてもおかしくない時代」と分析する。

 そうしたなかで、川ア氏が注目するのが、英国から登場している有力な新人アーティストたちだ。

 「今年のグラミー賞で最優秀新人賞を受賞した英国のR&B歌姫、オリヴィア・ディーンは、現在は自国のみならず、米国を含めた全世界でモンスター・ヒットしており、ここまでのムーヴメントは、2011年のアデルや、2015年のサム・スミスに続いてかなり久しぶりです。オリヴィア以外にも、シエナ・スパイロやエルミーン、シークゥなど、今の英国R&B/ソウル・シーンは洋楽全体のトレンドであると言えます。今年の『SUMMER SONIC 2026』には、弊社洋楽アーティストが10組以上出演させていただいたのですが、その過半数が英国の新人アーティストでした。今の世界の音楽トレンドをリアルタイムでなぞる形で『SUMMER SONIC 2026』にブッキングしてくださったクリエイティブマンの清水社長や社員の皆さんには大変感謝しています」(川ア氏)

単発のプロモーションで終わらせない 『東京音始』が目指す未来

 こうした現在進行形の洋楽シーンの中で、今回の『東京音始』に登場したエルミーンとGood Neighbours。気になる日本での今後の展開だが、先のレポートからもわかるように、『SUMMER SONIC 2026』での初パフォーマンスを経て、両アーティストともに単独来日公演に意欲的。しかも、日本のファンと距離が近い、親近感のある存在になることを熱望しているという。こうしたアーティストと日本のリスナーとの距離を縮めていくことこそ、『東京音始』というショーケースの存在意義であり、ユニバーサルインターナショナルが目指すところなのだろう。

 その実現のためにも、佐々木氏は、まずは『東京音始』という名前を信頼される“音楽ブランド”として定着させ、リスナーに「『東京音始』で紹介されているなら聴いてみたい」と思ってもらえるよう、質の高い出会いを継続的に作っていくことが今の目標だと答えた。

 「それと同時に、アーティストにとっても、日本で自分たちの音楽やメッセージを届けるための重要な発信の場にしていきたいと思っています。単発のプロモーションで終わるのではなく、その後の日本での活動やファンとの関係づくりにつながるような、継続性のあるプラットフォームへと成長させていきたいです」(佐々木氏)
 
 今回は、初めての試みということもあり音楽業界関係者向けのショーケースとして開催された『東京音始』だったが、今後、より多くのリスナーに認知され、規模を広げていければ、将来的には有観客でのショーケース開催も検討していくとのこと。やはり、アーティストの息遣いや熱量を直接感じ取れるのは、ライブという空間を体験してこそだ。さらには、日本のリスナーや音楽関係者だけでなく、海外のアーティストからも「日本で発信するなら『東京音始』に参加したい」と思われるような場へ。そうした存在へと成長すれば、『東京音始』ならではの価値もさらに高まっていくだろう。

 東京から新たな音楽との出会いが始まり、それが日本中、さらには世界へ広がっていく。そんな場所を目指す『東京音始』が、今後どのように育っていくのか。第2回、第3回へと続く展開に期待したい。

取材・文:布施雄一郎

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