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音制連40周年記念 後藤豊初代理事長×野村達矢理事長対談
センスと勘が引き寄せる感動 アーティストが歌い続ける魔力

日本音楽制作者連盟理事長 野村達矢氏(MUSIC AWARDS JAPAN実行委員会委員長/ヒップランドミュージックコーポレーション代表取締役社長)
センスと勘を鍛えるためには現場に足を運ぶしかないんですよ。ライブの現場でお客さんの様子を観察したり、会場の空気を感じる。そうすれば「この曲ではこんな反応するんだ。今はこういう曲が受けるんだ」と現実が見えてきます。フェスに足を運べば他のアーティストとの比較を含めて、自分がマネージメントしているアーティストが今、どんなポジションにいるのか目の当たりにできます。3つくらいステージがあると、お客さんは流動するわけじゃないですか。このタイミングはこのステージにいたけど、次の曲をやったらお客さんは離れてしまうこともある。そういったリアルに接していると勘が研ぎ澄まされていきます。
もちろんマネージャーだけではなく、アーティスト自身がセンスと勘を兼ね備えることも大事でしょうね。例えばサカナクションの山口一郎とは、そういった話を今でもよくしていますし、現場を知り、臨場感を味わう大切さは共有していますので、そういう関係で一緒に仕事できていることは非常にありがたいですよね。
後藤 今の野村さんの話を僕も肯定します。まあ、今はデータを分析して訳知り顔で発言するのが流行りみたいになっていますが(笑)、実際にそれがヒット曲につながるかといえば全く別の話ですから。我々の仕事は人を感動させる音楽をつくることであり、感動を得た時の喜びを味わうのが最上のやりがいなんです。マネージャーなりプロデューサーなりがアーティストにアイディアを出して、アーティストがまたアイディアをより広げて具体的な作品になる。気がついたら、その作品が世の中を席巻している……こんな素晴らしいことはないわけです。基本的にスタッフはクリエイターであるべきだし、楽曲やライブから生まれる感動をスタッフも味わうべきなんです。アナライズはSNSの普及が原点ですが、もう当たり前になっていますしね。それを前提としてマネージャーがやれることをやっていくという段階でしょう。
もちろん今まで我々は海外のデータを手にすることはできなかったので、それが入ってきたのはとても大きいことだと思います。ただし、海外で日本のアーティストが注目されている事例を考えると、例えば身近にはフォーライフレコードから1978年にデビューした杏里の例がありますが、なぜ今、杏里が人気なのか、分析できたとしてもあくまで後付けですよね。それよりも現在に至るまで杏里が原曲のキーで過去の楽曲を歌えることが素晴らしいし、こちらも海外レコーディングでお金をかけて、丁寧にアルバムもつくっておいて本当によかったなと思います。
野村 本当にそうですね。今年6月の「MUSIC AWARDS JAPAN WEEK SPECIAL LIVE」で杏里さんとコンサートをやっていただいた高中正義さんも世界中でヒットしています。当時のアルバムは、音質・演奏を含めて本当にクオリティが高いですし、それが海外で注目されることは今の時代ならではの出来事だと思います。何より日本の音楽が長い歴史とともに評価されることはうれしいですよね。
――吉田拓郎さんもコンサートを再開しましたし、キャリアのあるアーティスト達の活躍は音制連が40年続いたことと無縁ではないと思います。
後藤 皆がこの年齢まで、がんばっている。拓郎なんて80歳ですよ(笑)。なのにステージに立つと、キラキラ輝くんですよね。これが音楽の魔力といいますか、アートが持っているマジックなのだと思います。
個々のDIY的クリエイティブと力強い「大枠」が共存する未来
日本音楽制作者連盟初代理事長 後藤豊氏(フォーライフミュージックエンタテイメント代表取締役社長)
レベルの高い付き人にならず、行動力とアイディアと知見があって、フットワーク軽くアーティストの将来を導いていける優秀なマネージャーが育てば、AIが当たり前になろうがどんなメディアが登場しようが、マネージメントの仕事は成立するし、続いていく。でも、ひょっとしたら、それが音制連の会員社ではなく、他の場所から生まれてくるかもしれない。いずれにせよ、今のマネージメントを担っている人達が、枠組みや価値観にしばられることなく、自分で新しいスタイルをつくっていけば大丈夫だと思います。
今年の「MUSIC AWARDS JAPAN」で、受賞したサカナクションの山口(一郎)さんが「北海道から出てきて、19年。この場所に立っていることが感慨深い」といった挨拶をしていて、聞いていた僕はホロッときたんです。それはおそらくマネージメントをしてきた野村さんが、色々なことがありながらも愛情を持って彼らに接してきて、ここまでともに歩んできた結果でしょうから、すごくうれしくなりました。山口さんは非常に頭のいい方であり、素晴らしい才能を持ったアーティストだと思いますので、時にマネージメントを超えた発想で動こうとするかもしれない。でも、そういったアーティストと一緒にちゃんとやっていけるマネージャーがいるということが、「MUSIC AWARDS JAPAN」のあのシーンに象徴されているようで、うれしくなったんです。
――個々の会社だけではなく、音制連全体を見渡した上で、プロダクションの未来についてはいかがでしょうか。
野村 やはり我々にとって重要なミッションは、マネージメントをするアーティストの権利をどう守るかであり、権利を守ることでアーティストが活動していく環境をサステナブルにすることだと思います。より良いクリエイティブをしてもらうための原資を維持することは、とても重要なことですし、これからも音制連が一番大事にしていかなきゃいけないのは、アーティストの権利だと考えています。技術の進化や変化の中で、今年認められたレコード演奏・伝達権のように新しい権利が立法化されることもありますし、時代や社会の状況に応じて音制連が何をしていくかを考えていく必要がありますよね。
インターネットが進化して、今後はさらに個の時代になっていくわけじゃないですか。マスメディアからクラスメディアに、さらにはソーシャルメディアへと移り変わっていき、SNSで個人が様々なことを発信できるようになった。アーティストも同様です。レコード会社やプロダクションに所属するだけじゃなくて、インディペンデントな場所からDIYでつくった音源を発信することができる時代になりました。そういった中で僕達がアーティストの権利やクリエイティブな環境をどう守るかという発想が求められています。
コロナ禍が明けて、音楽団体が団結したCEIPA(一般社団法人カルチャー アンド エンタテインメント産業振興会)が誕生しましたが、それは個の時代になった現在から未来を見据えると、逆に団体はより大きくなるほうがいいのかもしれないという考え方が根底に流れているような気がするんです。いわゆるオールジャパンというか、ワンジャパンというか、ひとつの大きなかたまりになったほうが、グローバルなフィールドで日本の音楽を守り、ビジネスの上で各国に対抗する強さを持てると思うんです。アーティスト達の個々の強さ、音楽業界全体の大枠の強さ、両極で考えていくべきじゃないかと。
CEIPAが主催して「MUSIC AWARDS JAPAN」を始め、日本の音楽の国際競争力を具体的に進化させていく。一方でDIY的に個々のアーティストが配信すれば、世界中のリスナーに聴いてもらうことができる。この両面を日本の音楽が兼ね備えていけば、未来を切り開けるんじゃないか――そんな気がしています。現時点でもレコード会社、プロダクション、音楽出版社、コンサートプロモーターといった本来の業態の枠組はボーダーレスになってきていますし、ビジネススキーム自体が変わってきています。本当に今は時代の変わり目といいますか、場合によっては業界の再編も起こり得ると思います。
我々はCEIPAの一員として、スケールメリットがなくてはできないことをやっていく。インディペンデントなアーティスト達は自分達のやり方でクリエイティブを発揮し、組織が必要な場合はエージェント的にうまく使ってもらう。そういう関係値で存在を棲み分け、共存していくことが、これからの時代のひとつの形じゃないでしょうか。
後藤 DIY系で音楽を制作し、配信プラットフォームなどのネットワークを使って世界に音楽を届けようとしている人達は、音楽をどうデリバリーしていくかなどビジネスモデルに対しては積極的な面がありますが、著作権や著作隣接権に対しての意識は低い場合もある。彼らが成長していって、存在が大きくなっていくと、やはり権利を守るために連帯していく必要が出てくると思います。その人達が音制連に加わるのか、音事協に入るかは分かりませんし、ひょっとしたら新しく団体をつくるかもしれない。僕はそれでもいいと思う。ただし、おそらく誰の助けも借りないで活動していったら、フェードアウトしてしまう可能性も出てきてしまうと思うんです。
僕がよく話すのは、メジャーとインディペンデントの両方があるからこそ、エンタテインメントの世界はうまくいくんだと。メジャー一色でもよくないし、インディペンデントだけしかなくなると、バランスが取れない。それを基本として、野村さんが考える「大枠」が生まれてくればといいと思います。皆が並列で色々なことをやってきて、ある一定の成果を得て、次の段階に進む時に、大きなかたまりが必要になる。今度はまたカウンターとして新たなインディペンデントが出てくる。その繰り返しは続くのだと思います。新たなものが生まれるためには、「大枠」が本当に力強く、大きなものとして存在していることが大事なんですよ。そういった意味ではCEIPAは心強く見えていると思います。その強さをぜひ継続してほしいですね。
PROFILE
後藤 豊(ごとう・ゆたか )
フォーライフミュージックエンタテイメント代表取締役社長
大学在学中からコンサートやイベントの企画制作に携わり、1971年、ユイ音楽工房(現・ユイミュージック)を設立。1975年、フォーライフレコード(現・フォーライフミュージックエンタテイメント)の設立に参加、副社長に就任。1982年から代表取締役社長に。これまで手がけてきたアーティストは吉田拓郎、かぐや姫、長渕剛、BOΦWY、杏里など数多い。1986年に音楽制作者連盟(現・日本音楽制作者連盟)を設立、理事長に就任。また、1993年にはアジアをはじめ世界の音楽産業の発展、音楽を通じた交流を目的とする音楽産業・文化振興財団の設立に参画し副理事長に就任。2011年より理事長に就任。そのほか日本レコード協会、日本音楽出版社協会などの役員を歴任。
野村 達矢(のむら・たつや)
一般社団法人日本音楽制作者連盟理事長
一般社団法人カルチャー アンド エンタテインメント産業振興会理事
MUSIC AWARDS JAPAN実行委員会委員長
ヒップランドミュージックコーポレーション代表取締役社長
1986年、渡辺プロダクション入社。1989年、ヒップランドミュージックコーポレーションに移籍し、2019年に代表取締役社長執行役員に就任。ロングフェロー代表取締役社長、MASH A&R取締役なども歴任。2007年、日本音楽制作者連盟理事に就任。2017年に常務理事、2019年に理事長就任。





