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“タイパ効果”で進化するカラオケコンテンツ 一方で同類企画の乱発はテレビ弱体化の露呈も
“公共のマイクで素人が歌うのは画期的”長寿番組『NHKのど自慢』が起源
発想の根源は、当時のNHK音楽部のプロデューサー、三枝健剛が軍隊時代に新兵の演芸会を見たことがきっかけだが、素人にマイクを開放し、全国で自由に歌を披露することができるようになったということはエポックメイキングなことだった。
そして70年代には、ついにカラオケ機器が誕生。当時より「歌声喫茶」のような皆で合唱するような店もあったが、温泉の宴会場やスナックやカラオケ喫茶などに置かれ始めていった。カラオケは進化しながら徐々に浸透し、ビートたけしらがMCを務める『ドンピシャ!!ガンガン』(1981年 TBS系)ではカラオケを使った歌合戦である「カラオケドンピシャマッチ」なども放送。1985年にカラオケボックスが誕生してからは、1987年にはクラリオン、1988年には第一興商や日本ビクターなどの参入もあり、90年代にはファミリー層へも浸透。人々にとっての新たな娯楽のツールになった。
当時、『ザ・ベストテン』(TBS系)、『夜のヒットスタジオ』(フジテレビ系)、『ザ・トップテン/歌のトップテン』(日本テレビ系)、『ザ・ヒットパレード』(フジテレビ系)など、テレビでも多く音楽番組が放送され、音楽番組やレコード、CDが盛り上がることで、カラオケで同じように歌いたいという需要が拡大したことも後押しした。
またテレビ埼玉の『カラオケ1ばん』、千葉テレビの『千葉テレビカラオケ大賞』、『カラオケトライアル』、群馬テレビの『群馬テレビカラオケ大賞』など昭和時代のカラオケ番組は、地方局でも制作されて人気を博し、各局の長寿番組となった。
ベスト10をみんなでワイワイ楽しむものから、賞金をかけて競い合うものへ
「この背景には、90年代前半にカラオケがより身近になったことがある」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「バブル崩壊後、未使用のビルや空きフロアが増え、特に都市部にカラオケボックスが進出していった。さらには給食サービス大手のシダックスが参入したことから料理も提供されるように。当たり前のようにカラオケパーティーが開かれるようになり、そうしたパーティーを、“もし芸能人がやったら”的な楽しさが『〜ヒッパレ』にはあった。意外に歌が上手い芸人とそのギャップ、もしこのタレントがあの歌を歌ったら、という夢のコラボ。ゆえに共感も得て人気番組になったように当時感じていました」(同氏)
そしてゼロ年代以降は、カラオケの採点機能を利用し「カラオケで100点取るまで歌い続ける」(『いきなり!黄金伝説』(テレビ朝日系)より)企画や、歌の歌詞を間違えず歌ったら賞金がもらえる(『史上最強のメガヒット カラオケBEST100 完璧に歌って1000万円』(テレビ朝日系)などが登場。カラオケが単に歌って楽しむものから、よりバラエティ感を増しながら、エンタメコンテンツとして幅を広げていく。「テレビ朝日が現代のカラオケ番組の礎を作ったといっていい」と衣輪氏。
「また真剣勝負度合いが強くなってきたのも平成のカラオケ番組の1つの特徴。特にテレビ東京の『THEカラオケ★バトル』では、「歌の異種格闘技戦」としてプロの歌手、ミュージカル俳優、声優や宝塚OGといった幅広い職種の出場者が歌の真剣勝負を行っており、代表的。同番組ではほかに、「アマチュア大会」「U-18大会」「都道府県対抗!ご当地歌うま王決定戦」「大学生大会日本一決定戦」、さらには全国各地で行われている歌の大会の優勝者や日本代表が闘う「チャンピオンズカップ」、番組内の好成績者を一同に集めるグランプリ「ビッグタイトル」など、よりガチンコ度合いを高める方向性も創出されました。これも現代のカラオケ番組につながる遺伝子の一つのように思います」(同氏)
カラオケ番組自体が“タイパの極み”に 「カラオケ=1人で歌うもの」のマインドシフトがスキル重視の流れを加速
タイパ効果の影響もあるだろう。2021年には、カラオケボックスでもサビだけを歌って楽しむサービスも出た。これに、『関ジャニの仕分け∞』の「最強歌ウマ軍団にカラオケの得点で勝てるか仕分け」コーナーや、それを特番化した『関ジャニ∞のTheモーツァルト音楽王No.1決定戦』(共にテレビ朝日系)の「音程を正確に歌い上げる歌唱力の高さ」を楽しむコンテンツが合わさり、今のカラオケ番組がある。
ただ見て楽しむものからスキルやプロ具合を重要視する流れに。SNSでは「音程バー表示になっていることで、歌のうまさ、ビブラートや音程がゲーム感覚で見て分かり歌の勉強になる」という声もある。
「音程を正確に歌いあげる」というシンプルな企画が、SNSやネットで炎上しにくいこともカラオケを企画が増えた一因かもしれない。歌っている人をワイプごしに芸人がツッコんだり、ボケたりと彼のトークを楽しみながら、お茶の間で一緒に歌い手を見ているような雰囲気になるのも、令和におけるカラオケ番組の新しい楽しみ方に。さらに「〜鬼レンチャン」ではモノマネ要素というエンタメ化も付け加わっている。
また、もう1つの要因として、コロナ禍によって“1人カラオケ”のマインドにシフトしていったことも挙げられる。飲み会の二次会で行くような交流のツール的存在だったカラオケが飛沫や密を避けるこれにより「パフォーマンス重視より歌唱重視」の流れに強まっていった。
「カラオケ番組の増加はもちろん番組人気もありますが、音楽番組のように生バンドを揃えてやるより、圧倒的にコスパがいいという側面での要因もある。また過去から『TVジョッキー』、『びっくり日本新記録』(共に日本テレビ系)など“凄い人”を見て感心する文化がテレビにはあり、カラオケ番組もその“技術の凄さ”を見るという意味では楽しみ方は昔ながらです。以前、鈴木おさむさんにお話を聞いたところ、最近突然、声優がテレビに出始めたのはその“技術の凄さ”にあるとお話されていました。人々は今テレビに“技術の凄さ”を求めていると。それ自体はいい。しかし、ただあまりもの大量生産はそれ自体の消費期限を縮めかねず、カラオケ番組頼みになっているのは、テレビコンテンツの弱体化を示しているかも」(衣輪氏)
今やファミリー層に受けるコンテンツはカラオケ番組“のみ”と言えるのかもしれない。半世紀以上親しまれてきたコンテンツではあるけれども、最近のカラオケ企画の盛り上がりは、乱発ゆえに企画が消耗、視聴者の飽きを生じさせてしまいかねない。模倣ではなく、新たなアプローチによるコンテンツ開拓が早急に求められる。
(文/西島亨)