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「僕はとても弱い人間…」市原隼人、鮮烈デビューの裏で苦しんだ過去 俳優としての覚悟を強固にしたファンからの手紙

 精悍な肉体が注目されることも多い俳優・市原隼人。放送中の主演ドラマ『おいしい給食』では10キロ落として撮影に臨んだことを明かしている。そんな彼には幼い頃からの読書好きという一面も。子役でデビューし、36歳の現在も一線級の活躍を続ける市原の仕事観を形成した読書体験や、そこから派生した役者としての取り組みを聞いた。

「周りがみんな敵に見えていた」10代・20代の頃 唯一信じられた“本の中の師匠たち”

 先ごろ、Amazonのオーディオブック(以下Audible)にて、映画化された『ドライブ・マイ・カー』を含む村上春樹短編集『女のいない男たち』の朗読を担当した市原。実直な人柄やストイックな肉体づくりで硬派なイメージで知られる彼が、「読書が趣味」と聞くと意外に思う人もいるかもしれない。本を読む悦びを彼は「パンドラの箱を開けるような感覚」と表現する。

「読書というのはとてもひそやかな楽しみです。僕らは普段、理性や社会規範に縛られて生きていますが、本に没頭している間だけはたとえ倫理的に間違っている欲望でも満たすことができます。特に僕が向き合っているドラマや映画の世界は、近年、表現の規制がどんどん厳しくなっているので、創り手の思いがそのまま投影された小説に、純粋な創作物としての素晴らしさを感じることが増えています」

 役者デビューは14歳のとき。主演映画『リリイ・シュシュのすべて』の瑞々しく繊細な感性で将来を嘱望された。その期待に応えるように、10〜20代前半にかけてドラマ『WATER BOYS2』や『ROOKIES』など続々と主演作をヒットに導き、若くして役者としてのポジションを確立する。

「当時の僕は本当に幼く、会社でも上司が変わると“正解”が変わると聞きますが、役者の世界も同じで現場が変わると秩序も何もかも変わり、何を信じたらいいのか、大人が信じられず、周りがみんな敵のように見えていた頃に、本の中でたくさんのことを教えてくれる“師匠たち”に出会ってきました。特に若い頃の読書体験は、自分の軸や価値観を形成する大事な時間だったと思います」

「ビジネスだけでは割り切れない情熱と愛と誠実さがなければいけない」エンタメを生業とする者としての信念と覚悟

 主演作『おいしい給食』はドラマをシリーズ3回目放送、劇場版第3弾公開を控え、代表作の1つとなりつつある。コミカルな芝居で新境地を拓きながら、食をテーマにした作品、かつコロナ禍を挟んで積み重ねてきたシリーズだけに思うところも多かったようだ。

「コロナ禍で本作のほかにも現場が完全に止まった数ヵ月間は、自分の非力さに打ちのめされていました。いくら僕らが『エンタメは人に勇気や希望を届けるものだ』と信じてやっていても衣食住には必要ない。人のお腹は満たせない。だからこそ僕らは、この作品が社会や人にどんな糧を提供できるものなのかを、もっと真剣に考えて取り組まなければいけないんだと痛感しました」

 放送中のドラマシーズン3は役に似合うように10キロの減量をして臨んだ。華奢なイメージだった少年期を経て、20代中盤以降は鍛え抜かれた肉体美で注目されることも増えている。

「僕はとても弱い人間なんです。20代前半の頃はプレッシャーに押し潰されて、知らず知らず涙が流れてしまったり、嘔吐してしまうこともよくありました。その弱さに打ち勝つために人一倍の努力をして、ようやく人と肩を並べられるんです」

 華々しい活躍とは裏腹に、本来はとても不器用な人間なのかもしれない。それはこんな発言にも現れている。

「コロナ禍を経て、エンタメの現場がますますビジネス化しているのを感じます。もちろん商業作品である以上は、ビジネスとして成立する必要があります。ですが、エンタメが人の感情を商売道具としているからには、ビジネスだけでは割り切れない情熱と愛と誠実さがそこになければいけないと。『おいしい給食』のチームは商売人ではなく職人が多いから信じられるし、本気になれるんです」

「時代遅れだと言われようが、泥臭くもがき続けながら、役者として死ねたら本望」

 一言一言、言葉を噛み締めるように思慮深く発言する。その低く落ち着いた声の響きは、『女のいない男たち』(村上春樹著)の朗読(Audibleで配信中)でも存分に発揮されている。

「村上さんの文体はどこまでも官能的で、ときにドキッとする生々しさもあって。コンプライアンスの厳しい近年のエンタメ界ではだいぶ少なくなった、自分の恥部をさらけ出すような体験になりました。ただ小説というのはあくまでパーソナルなものであってほしいと思っているので、あまり僕の主観を押しつけず、聴いてくださる1人1人の物語になってほしいという思いで取り組みました」

 演じ手のエゴではなく、どこまでも受け手のためでありたい。そうした意識が芽生えた決定的な体験があったという。

「昔は今では考えられないほど熱い現場がたくさんあって、そんな作品の1つを楽しみにしてくださっていたファンの方から『目の手術をする』というお手紙をいただいたことがありました。『おそらく失明するけれど、最後に市原さんのドラマを観られてよかった』と。それを読んで涙が止まらなくなったのと同時に、目に見える形以上に熱量を伝えられる役者でありたいと強く思いました。今の時代は役者ももっと効率よく、それこそ“ビジネスライク”なやり方もあるのかもしれません。だけど滑稽だと笑われようが、時代遅れだと言われようが、泥臭くもがき続けながら、役者として死ねたら本望です」
(取材・文/児玉澄子)

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