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社会・経済
- 「家出少女」「悪質ホスト」「援助交際」「売春」… あなたのすぐそばにある“人身取引”のリアル… 川島海荷さんと学んでいく。
暴力や脅迫だけでなく、巧みな言葉で相手をだまし支配下に置き、売春や労働を強要する「人身取引」。悪質ホストや家出少女、援助交際など、近年ニュースでも注目される事例を切り口に、その実態や背景、防止策について、女優・川島海荷さんとともに深く掘り下げた。 ━━川島さん、突然ですが、「人身取引」という言葉を聞いて、どんなイメージを持ちますか? 川島:映画や海外のニュースで見るような、どこか遠い国の凶悪犯罪というイメージがあります。ちょっと他人事というか、自分の日常とはあまり結びつかないというか……。 ━━そうですよね。でも実は、国際的なルール(人身取引議定書)では、暴力や拉致だけでなく、「だますこと」や「断れない立場や弱みにつけ込むこと」を使って人を支配し、性的サービスや労働を強要することも「人身取引」に定義されているんです。
川島:えっ? ということは、本人が無理やり連れ去られたわけでなくても、好意や弱みに付け込まれて断れない状況にされていたら、それも人身取引になるんですね。
━━その通りです。そう考えると、若い世代、そしてその親世代にとっても、決して他人事ではない身近な問題に見えてきませんか?
川島:びっくりしました。自分が気づかないうちに好きになった人に心をコントロールされて断れない状況になってしまうのは、あり得る話ですから。誰もが気づかないうちに罠に落ちてしまう可能性がある、すぐ隣にある問題なんだって認識が変わりました。 警察庁の資料をもとに 実際に国内で起きている実例を見ていきましょう
恋愛感情を“人質”にされて売春を強要される実例
川島: 本人は「大好きな彼を助けたい」「嫌われたくない」という一心なんですよね。周りから見たら絶対におかしいのに、純粋な好意を利用されているから、自分が被害に遭っていると気づけない。たとえ少し疑問を持ったとしても、一度好きになった相手にマイナスなイメージを持つのは難しいですから、「認めたくない」「信じたい」っていう気持ちになってしまうでしょうし、だからこそ卑劣だし、切ないです。 ━━本当にその通りです。もし川島さんの身近に、こういう状況に陥っている人がいたら、どんな変化に気づけると思いますか? 川島: そうですね……。急に見た目や生活が派手になったり、恋愛中はウキウキしているはずなのに幸福感がないように見えたら、問題が発生していると考えて、相談に乗ってあげるのが大事かなって思います。そして彼のことを聞いても、答えを渋ったり、様子が落ち着かなくなったりしたら、それは周囲が気にしてあげるべきサインなのではないでしょうか。陥ってしまっている人の中には、誰にも相談できなかったり、応援されない恋愛だからと孤立してしまっている人もいると思うんです。だからこそ、周りが気づいてあげることが早めに問題を解決できるきっかけになるのかなって思います。 逃げられない状況に追い込まれた悪質なホストクラブでの実例
川島: 悲しいですよね。寂しさを埋めてくれる楽しい場所だと思って通っていたのに、気づいた時には完全に支配されているなんて……。寂しかったり、仕事で辛かったり、弱っているときって人はどんどんマイナス思考が加速していってドン底みたいな気持ちになって、そんなときに助けてくれる人が現れたら一気に信頼してしまうじゃないですか。そんなふうに弱った心を巧妙に利用しているのは本当に卑劣ですし、しかもいくら返せばいいのか借金の残高も教えられないまま働かされ続けるなんて、怖すぎます。 ━━このケースでは、生活リズムの激変や、クレジットカードの大量の請求、借金に悩んでいる気配などから周囲が異変に気づくことも多いです。 川島: 「夜間の外出が急に増えたな」とか、家族だからこそ気づける日常の変化の中に、SOSが隠れている可能性があるんですね。 自分が使ってしまった借金だから仕方ないっていう気持ちを持っていると、誰かに相談するのは難しいでしょうから、周りで気づいた人が「警察に行ってみたら」などアドバイスしてあげることが絶対必要な事例ですよね。 SNSで「家出したい」そんな書き込みをした児童が狙われる実例
「うちで寝泊まりできるよ」と優しい言葉で誘い出し、家へ連れ込んだ途端に態度を急変させ、「暴力団に知り合いがいる」などと脅して援助交際(売春)を強要する手口。 川島: SNSが普及してからこういう事件が増えているなっていうのは実感していましたが、家に居場所がなくて苦しんでいる子どもの心につけ込むなんて、本当に悪質です。「家出をして行くあてがない」という弱みにつけ込まれて脅されたら、怖くて逆らうことも逃げることもできなくなってしまいますよね。強要された売春で得たお金もほとんど奪われて長期間被害が続くなんて、想像を絶する恐怖だと思います。 ━━まさにそこがポイントです。被害児童の「家出」という孤立した状況や弱みにつけ込んで脅し、心理的に逃げられないようにして売春を強要するのがこの手口の大きな特徴なんです。 川島:子どもは人生経験が多くないですし、好奇心で知らない人についていってしまう部分もあると思うんです。子ども自身が判断して止めることは難しいと思うので、身近な子どもが家出をしていたり、様子がいつもと違ったりしたときはもちろん、SNSでの何気ないSOSのサインを見逃さないように、大人がしっかり目配りをしておくことが大切ですよね。 海外から来日した人や仕事のミスにつけ込まれた「労働の強要」の実例
川島: 「ダンサーとしてスカウトされた」のに、日本に着いた途端にパスポートや携帯電話を取り上げられて、ホステスの仕事を強制されるなんて、言葉も通じない知らない国でそんな状況にされてしまうなんて地獄です。 ━━逃げられないようにする典型的な手口です。知らない土地で日本語も分からず、連絡手段を奪われたら、助けを求めることもできません。 川島: これも「だまして連れてくる(欺もう)」という、人身取引の手口に当てはまるんですね。もし街の中や職場で、日本語が分からずに怯えている在留外国人の方がいたら、周囲の大人が「何かおかしいな」と気づいて、力になってあげることが本当に必要だと思います。 ここまで4つの実例を見てきましたが、実は国際ルールにおいて、非常に重要な事実があるんです。それは…
だまされたり、脅されたりしていた場合、たとえ本人が「やる」と同意しても人身取引として成立します。
川島: 同意していても、犯罪になる……!
━━はい。被害に遭った方は、「自分がホストクラブに通ったから」「自分がそのバイトに応募したから」と、自分を責めて誰にも言えずに抱え込んでしまうことが多いんです。また、「自分はだまされているのではないか」と気づいたとしても、相手から脅されたり、お金を稼ぐよう強く言われて、抜け出せなくなってしまうこともあります。でも、どんな理由があっても、人を商品のように扱って支配することは絶対に許されません。
川島: 支配する側が圧倒的に悪いのに、被害者が追い込まれてしまうのですね。でも、同意していても犯罪になることがもっと広く知られれば、本人も声をあげられるかもしれませんし、周りも手を差し伸べてあげやすくなりますよね。被害に遭われている方たちは、自分に負い目を感じて孤立してしまっている可能性も高いと思うので、周囲の友人や親御さんは、被害に遭ったことを責めるのではなく、「あなたが悪いんじゃないよ」とまずは寄り添い、味方になって、安全な相談窓口に繋いであげてほしいです。 ━━ここまで性的搾取から労働の強要など、現代のリアルな4つの実例を見てきましたが、改めて全体を通して川島さんはどのように感じられましたか? 川島: どのケースも「まさかこれが犯罪(人身取引)だなんて」と思ってしまうような、日常のすぐ裏側に潜んでいるものばかりで本当に驚きました。特に印象的だったのは、被害に遭われている方たちが、暴力で縛られているというよりも、「断ったら嫌われる」「自分が家出をしたから仕方ない」といった純粋な気持ちや責任感を逆手に取られて、心理的に追い詰められている点でした。
精神的にコントロールされたり、付け込まれて利用されるという見えない支配の怖さを強く感じましたし、そうなってしまうとなかなか抜け出せないであろうこともわかりました。それに「自分が悪いんだ」と思い込まされてしまっている人の中には、自分はもう犯罪に加担した加害者になってしまっていると思って諦めている人もいるかもしれません。だからこそ、本当に周りが小さな変化に気づいて手を差し伸べることがどれほど大切か、身に染みてわかりました。
━━今日は「人身取引」の本当の定義と実態について学びましたが、最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします。
川島: 人身取引は、国籍や年齢を問わず、誰の身にも起こりうる卑劣な犯罪なのだということが今日、わかりました。もし今、苦しい状況から抜け出せずに悩まれている方がいたら、決して一人で抱え込まないで、解決策はあるのだから、上を向いて、誰かに助けを求めてほしいです。そして皆さんも、大切な家族や身近な友人の小さな異変を見逃さず、一歩踏み出して、相談に乗ったり通報する勇気を持ってほしいです。皆さんの気づきが、誰かを救うきっかけになると思います。私も周りにそういう人がいないか気を配ることを心がけたいと思います。 (インタビュー・文:河上いつ子 / 撮影:青木純)