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「盲ろう」4歳児の日常を発信するママの思い、見えない・聞こえない・話せない”三重苦”でも「こんなにも人生を楽しんでいる」
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人工内耳を着け、鍵盤のおもちゃで遊ぶいのりちゃん(Instagram/@inori_2110)
いつも真顔で遊んでいた娘が”音”を楽しむように「愛おしくてたまらなかった」
オーブントースターの前で音を感じるいのりちゃん(Instagram/@inori_2110)
「娘のいのりは生まれながらに盲ろうという、視覚障害と聴覚障害を二重に持つ生活をしています。 想像することさえも非現実的に感じるような稀少な障害であるため、動画がこんなにも多くの方々へ届き、驚いています。社会では圧倒的な少数派であり、当事者たちは日々のコミュニケーションを取ること自体が困難です。そうした状況でも、こうしてSNSを通せば繋がりができて共感を持てることが分かり、何より心強く感じました。そして、『盲ろう』を知らなかったと言う方々に届いたことが何より嬉しく思います」
――いのりちゃんは人工内耳という装置を使うことで、音のある・なしが判断できるようになったとのことですが、オーブントースターの音で踊るいのりちゃんを見たとき、どのように感じられましたか?
「はじめは物音がすると手を止めて『何かな?』とわずかに気にかける様子が見られるだけでした。そこからじっと耳を傾けて音を聴く様子が増えてきて、次第に音楽の鳴るおもちゃを自分の意思で鳴らして遊ぶようになり、『音を求めている』と確信が持てるようになりました。 オーブントースターのリズムに合わせて頭を振っている様子を見た時は、思わず『かわいい!』と真っ先に言葉をかけていました。いのりは、まだ自分の気持ちを言葉で伝える手段を持っていません。いつも真顔で遊んでいることが多いため、気持ちを汲み取ることが難しかったのですが、明らかに『音を楽しんでいる』様子に成長を感じ、愛おしくてたまらなかったです」
――動画に登場するオーブントースター、パスタ、メトロノームのほかに音や感触がいのりちゃんのブームになったものはありますか?
「五感は補い合うらしく、いのりは触ること(触覚)がとくに優れているようです。 プラスチックなどの固いものの感触を確かめることが大好きです。柔らかいものは形がどんどん変わってしまうため、全容をつかめないことが嫌なのか、あまり好きではないようです。1歳〜2歳の頃からずっとペットボトルを叩いたり、振ったり、かじったりして楽しんでいます。最近は、入浴時にボディーソープのボトルから華やかな香りがすることに気付いたようで、お風呂から上がった後もずっと大事そうにボトルを抱えて、そのまま眠りについたこともあります」
音・光のない世界への不安を払拭した娘の笑顔「いのりにとってはこの世界が普通」
聴覚を獲得するための装置の人工内耳を着け、音のある・なしを判断しているいのりちゃん(Instagram/@inori_2110)
「ものの仕組みや構造をはじめに教えることを心がけています。『どんな形だろう』『ここにスイッチがあるね』『スイッチを押すとこのような動きや変化があるね』と一緒に触りながら操作し、一緒に楽しむ経験をしてもらいます。また、自分の意思やタイミングで遊ぶことも大切にしています。1人でも遊べるように、分かりにくい平面のスイッチには、立体的なシールを貼って分かりやすくしたり、よく遊ぶおもちゃには決まった定位置を作り、必ずそこへ戻すようにしたりしています。物怖じせず何でも積極的に触りに行くのがいのりの取り柄なのですが、危険をいのりに予告することが難しいです。今は危険なものを事前に取り除くようにしているのですが、その点を教えていくのは今後の課題でもあります」
――いのりちゃんがほとんど目が見えず耳が聞こえないと分かった時、どのような思いが浮かびましたか?
「この先いのりに降りかかるであろう困難を考え、漠然とした不安を感じました。いのりと一緒に何かを見たり聞いたりしたとしても、同じように物事を感じて気持ちを伝え合うことができない寂しさで、胸が詰まりそうでした。『光も音も届かない世界は、どれだけ孤独なのか...』と心配でたまらない日々でしたが、いのりにとってはこの世界が『普通』であり、ニコニコと毎日楽しそうに過ごす姿を見ていく中で、そうした不安は自然と消えていきました」
――いのりちゃんの成長記録をSNSで投稿しようと思ったのはなぜですか?
「私は恥ずかしながら、いのりと出会うまで聴覚障害についても視覚障害についてもほとんど何も知りませんでした。ヘレンケラー女史についても、歴史上の人物として名前は知ってはいたけれど、何となくフィクションのように、遠い世界の、架空の話のように感じていて。いざ娘に聴覚障害、さらに視覚障害があると分かった時は、得体の知れない不安で押し潰されそうで、少しでも情報を探そうとスマホを開いてネットを探し回りました。しかし、令和のこの時代に、ほとんど何も情報が見つからず。それでもわずかな手がかりを元に、いのりは生後半年頃には適切な機関と各方面で繋がりを持つことができました」
――ご両親は苦心されて、いのりちゃんの障害について情報を得て、育児の体制を整えられたのですね。
「同じような状況、似たような状況にある人もいないわけではありません。『そうした人たちへ情報を届けたい』と思いました。そして、何よりも障害児育児と言うと『かわいそう』とネガティブなイメージを持たれることが少なくないのですが、決してそんなことはありません。『毎日幸せそうに過ごしている様子をたくさんの方々に見てもらい知ってもらうことが、巡り巡って、いのりや、障害を持つ子どもたちが生きやすい未来にきっと繋がるだろう』と思ったことが情報発信していこうと決めたきっかけです」
「両親と他の大人の区別すらつかないのでは」一方通行だったコミュニケーションから”想像以上“の成長
お気に入りのオーブントースター、メトロノーム、茹でる前のパスタを持ついのりちゃん(Instagram/@inori_2110)
「ここ最近の成長で取り上げるとすると二つあります。一つ大きなことは独自のサインで簡単な気持ちを伝え、会話ができるようになったこと。思いを『伝えたい』という気持ちが芽生えて、こちらからの問いかけに答えてくれるようになりました。長い期間、どれだけ声で話しかけても、どれだけ笑いかけても反応がなかった姿を思うと、この成長はあの頃想像していた以上の明るい未来でした。
二つ目に親に甘える姿が増えたことです。先ほどの言葉とも重なるのですが、いくらあやしてもいのりから笑い返してくることはなく、ひたすらいのりへの一方通行なコミュニケーションを続ける日々が長く続いていました。『この子は、パパママと他の大人の区別すらつかないのではないだろうか...』と時には不安に思ったことも。それが今では朝、寝ているところへ起こしに行くと、私(ママ)に気付いたいのりは、にっこりと笑いかけて近寄って抱きついてくるようになりました。さらに些細なことで言うと、最近は手を繋いでいるとたまにスキップ(のようなもの)をするようになり、『ああ、今この子はこんなにも人生を楽しんでいるんだ』と私もとても温かい気持ちになります」
――これからいのりちゃんにどのような人生を歩んでもらいたいですか?
「特別何かを成し遂げなくていい。偉人にならなくていい。今はただ、『この先もずっと、幸せをたくさん感じて生きていってほしい』と強く願っています」