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AI環境“10年遅れ”の日本で楽天が示す勝算とは?「あなたのナンバーワンには確実になれる」

楽天グループ 取締役 副社長執行役員 グループ CMO・河野 奈保 氏

楽天グループ 取締役 副社長執行役員 グループ CMO・河野 奈保 氏

 日本における個人の生成AI利用経験率は26.7%──。中国81.2%、米国68.8%とその差は歴然としており、ネットでは「日本のAI環境は世界に比べて10年遅れている」言説も定番化している。国家規模で予算が投下される諸外国とはスタート地点が異なる日本で、“国内発のAI”がいかに存在感を示していけるのか。あえて困難とも言える道に歩みを進めているのが、エージェント型AIツール「Rakuten AI」を提供している楽天グループだ。“国内発のAI”が世界と渡り合う勝算はあるのか。2026年8月5日〜7日に開催されるイベント「Rakuten AI Optimism」(外部サイト)の統括責任者で、楽天グループ 取締役 副社長執行役員 グループCMO・河野 奈保 氏がその道を示してくれた。

”AIの会社に生まれ変わる”宣言から2年、国内最大規模の高性能AI「結果が見えてきています」

 スマホのカメラで撮った写真が勝手にキレイに補正される。エアコンが部屋の人数や体感温度を感知して自動で風量を調整する。動画配信サービスでも、なんとなく気分に合った作品をレコメンドしてくる──。昨今のこうした「ちょっとした便利」の裏側ではたいていAIが動いている。

 AIを使っている実感のないまま、その恩恵を日々受けている人も少なくないだろう。数年前まで一部の専門家やテックマニアのものだったAIは、いつの間にか誰もが無意識に使う"生活インフラ"になりつつある。

 ここ数十年で生活インフラとして定着したものの1つがネット通販だ。その功労者である楽天グループが「AIの会社に生まれ変わる」と宣言したのは、2024年開催のイベント「Rakuten Optimism 2024」でのことだった。代表取締役会長兼社長の三木谷 浩史氏は、情報の国境が消滅し、グローバル規模での競争と課題が複雑化する現代において、世界中の誰もがAI技術を身近に体験できる社会の実現に向けて『AIの民主化』を推進。オペレーション効率20%、マーケティング効率20%、そして楽天市場の店舗をはじめとするクライアント効率も20%向上を目指す「トリプル20」という挑戦的な目標を掲げたのだ。

「昨年はPoC(実証試験)のフェーズでしたが、今年はそこから実装フェーズへと大きく歩みを進めています。この1年で楽天グループのさまざまなサービスに実際にAI機能が導入され、多くのユーザーに使っていただき、かつ結果が見えてきています」(河野氏)

 2025年7月には、エージェント型AIツール「Rakuten AI」を提供開始した。これまでに積み上げてきた土台が、いよいよ生活者の日常に届き始めている。

購入時間41%減、単価17%増、”1億”のIDを持つ「AIコンシェルジュ」の実力

 「Rakuten AI」の裏側にあるのは、国内だけで1億を超える楽天IDの会員基盤だ。そのうち月間アクティブユーザーは4,588万人。オンラインだけでなく、コンビニエンスストアやドラッグストアなど「楽天ポイントカード」の加盟店も含めたタッチポイントは1,000万を超える。

 この膨大なデータをもとに、2025年12月には楽天市場で「AIコンシェルジュ」の提供がスタートした。検索ワードを打ち込む代わりに対話形式で趣味趣向を伝えるだけで、AIが精度の高い商品提案をしてくれる。これによって叩き出された数字は決して小さくない。

「直近のデータでは、お客さまの購入決定までの時間が41%短縮されました。さらに顧客単価は平均17%アップしています。ここで重要なのが、お客さまが本当に求めている商品に辿り着けているということです。検索結果がたくさん出るとどうしても一番安いものに引っ張られがちですが、価格競争ではないお買い物満足度を向上させる提案ができるのがAIの強みです」

「Rakuten AI」に投げかけると、候補となるものが3つ提示される。さらに各候補のなかで3種類の商品・サービスをピックアップしてくれる仕様に

「Rakuten AI」に投げかけると、候補となるものが3つ提示される。さらに各候補のなかで3種類の商品・サービスをピックアップしてくれる仕様に

 このAIコンシェルジュは楽天モバイルや楽天トラベルなど、楽天の展開するあらゆるサービスに広がりつつある。8月5日〜7日にパシフィコ横浜で開催される「Rakuten AI Optimism」(入場無料・事前登録制)では、そんな「楽天ならではのAI」を体感できる展示ブースが用意されているという。

「タッチパネルに楽天IDとパスワードを入力していただきます。すると、そのお客さまが今まで楽天市場で何を買い、楽天トラベルでどこへ行き、楽天モバイルをどう使ってきたか──。そうした過去のデータをもとにペルソナ、いわばもう一人の自分のイラストが生成されます」

 つまり自分の行動履歴が、AIの目にどう映っているのかが可視化されるという仕掛けだ。

「個人データを入れるのに抵抗がある方にはサンプルIDもいくつかご用意していますので、安心して体験いただくことができます。そのほかにも『AIってこういう使い方ができるんだな』ということを、説明ではなく実際に体験を通じてご理解していただけるようなエンタメ性あふれるブースをたくさんご用意しています」

効率化が奪う”偶然の出会い”、河野氏「いい意味での”揺らぎ”がRakuten AIの強み」

2025年に開催された「Rakuten AI Optimism」の様子

2025年に開催された「Rakuten AI Optimism」の様子

 ビジネスカンファレンスのゲストスピーカーの顔ぶれもタレント・伊集院光氏や、早稲田大学ビジネススクール教授の入山 章栄氏、ファミリーマートのエグゼクティブ・ディレクターCMOの足立 光氏、コルク代表取締役社長の佐渡島 庸平氏など、テクノロジー界隈に限らない。世代や属性を超えてAIがどんどん民主化されている、そんな時代の幕開けを象徴しているかのようだ。

 とはいえ、現在もAIに対する抵抗感を示すむきは一定数存在する。たとえば最適化が進めば進むほど、お買い物の楽しみの1つである“偶然の出会い”が失われないか。そんな懸念に対して、河野氏は「楽天ならではのAI」の強みをこのようにコメントする。

「日本語に最適化されたRakuten AIの強みは、日本の独特な言語のニュアンスや文化、慣習などを深く理解できることです。これによって実現できるのが、いい意味での"揺らぎ"です。ショップの店員さんと会話しながらお買い物をする楽しさって、想定外のものを提案してくれたり、新しい情報をもらえたりすることだと思うんですね。それと同じように、"あなた"を知り尽くしたRakuten AIだからこそ、潜在的なニーズまで掘り起こすことができる。意外な発見や出会いといったお買い物ならではのワクワクを創出するのも、楽天市場のAIコンシェルジュが大切にしていることです」

 なるほど、理屈では理解できる。“揺らぎ”は、AIの効率性を求める動作、完璧にシステマティックに処理する能力とは相反する部分。元来日本が大事にしてきた“奥ゆかしさ”のある価値観――これをAIに入れ込めたら、独自性はかなり高まる。同社が勝負をかけているのは、日本の文化的背景や価値観を反映したAI。これぞ“国内発のAI”が進むべき道なのかもしれない。

 それでもAIが急速に生活に浸透しつつある今、言語化できない漠然とした不安や恐怖を抱く人も少なくないだろう。

「拭い去りがたい抵抗感は致し方ないですよね。ただご自身ではAIを使っていないと思っている方も、実はすでに使っているはずなのです。スマホはその最たる例と言えるでしょう。おそらく近い将来は、"AI"という言葉すら使われなくなる。そこにAIが存在することを意識しなくなるほど、生活に身近なものになっていくのではないかと思います」

世界のAIと伍していけるか 楽天が掲げる”あなたのナンバーワン”という答え

 河野氏が推測するように、AIに親しみを持つ世代はどんどん育っている。2025年の新語・流行語大賞にノミネートされたChat GPTの愛称を命名したのも、おそらくそうした若い世代だろう。世界に比べて10年遅れと悲観されてきた日本のAI環境も、これから急速に変わっていくかもしれない。

 一方で、国内発のRakuten AIだが、果たして「チャッピー」をはじめとする世界のトッププレイヤーAIたちと伍していけるのだろうか。

「意外とAIはオールラウンダーではなく、それぞれに専門性があるのが現状です。実際、AIを使いこなしている方の多くは、資料作成にはこのAI、画像生成ならこのAIというふうに使い分けているのではないかと思います。ではRakuten AIの専門性は何か? 日々のお買い物から金融、通信、エンタメまであらゆるライフシーンを網羅した70以上のサービスをシームレスに繋いだ楽天IDをもとに、あなたの人生を包括的にサポートする。それがRakuten AIの強みです」

 河野氏は楽天モバイルのCMOでもある。モバイル事業では後発の楽天モバイルだが、2025年のオリコン顧客満足度(R)調査 「携帯キャリア」ランキングで3年連続・4度目の総合1位を獲得しているように、個々のユーザーとの向き合い方で結果を積み上げてきた。それが楽天グループの強みだ。

「世界を見渡しても、今はまだ総合的な性能とシェアで絶対的ナンバーワンと呼べるAIはありません。ただ、Rakuten AIは"あなたのナンバーワン"には確実になれると自負しています。あなたを最も理解し、人生の豊かさと成長をもたらす。それが"楽天らしいAI"の姿だと私は考えています」

 そもそも「楽天」という社名には、安土桃山時代の"楽市・楽座"のように、誰もが自由に賑わえる市場をネット上につくりたいという願いと、どんな逆風でも明るく前向きに進む"楽天主義"の思想が込められている。

 10年遅れという悲観論も、AIへの漠然とした不安も、楽天にとっては織り込み済みの逆風にすぎないのかもしれない。河野氏の語った"あなたのナンバーワン"という言葉には、そんな楽天らしい矜持が滲んでいた。

取材・文/児玉澄子 撮影/岡田一也

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